FRBからベージュブックと呼ばれる8月の経済状況をまとめた資料が発表されました。
グラフなどのデータはなく英語の文字ばかりで(私も含め)あまり読む気にならない資料ですが、8月のアメリカの経済を見渡すには役立つ内容になっています。
FRBの12地区それぞれの景気については細かすぎるのではここでは触れませんが、アメリカ全土でどのような経済状態になっているのかをベージュブックの内容をもとに見ていきます。
この記事のポイント
- アメリカの個人消費は堅調だが、経済活動は7月から8月にかけて横ばい。
- 住宅販売は全地区で落ち込んだ。(2023年後半には家賃の伸びが止まり、消費者物価を押し下げるかも)
- 一方で、アメリカの雇用はまだ強く、2022年内は物価上昇圧力が高い状態が続きそう。
アメリカ経済
経済活動についてベージュブックに書いてあったことを取り上げます。
- 経済活動:7月からほぼ横ばい。5地区はわずかな成長、4地区はわずかに悪化。製造業は供給の問題や人手不足で生産が減った地区もあるが成長。旅行は堅調。
- 個人消費:成長減速が見られるが堅調。消費は耐久財から生活必需品にシフトしている。なお、車販売は高い価格を理由に低調。
- 不動産:全12地区で住宅販売が落ち込む。商業用不動産も軟化。
まず、アメリカの8月の経済活動はほぼ横ばいだったようです。
試しに7-9月のアメリカの実質GDP成長率の予想をGDPNowというサイトで見てみると年率+1.6%で、「なるほど確かに低い成長率でほぼ横ばいだな」と感じます。
しかし、1月から6月まではアメリカのGDPがマイナス成長だったことを考えると、景気はわずかに持ちこたえているのかもしれません。
個人消費は堅調
アメリカの景気で明るい表現が使われていたのは個人消費で、「堅調(steady)」と表現されていました。
8月の個人消費は9月末になるまで発表されないので、どの程度「堅調」だったのかわかりませんが、少なくとも前月よりは上向いているのではないかと思います。前月の7月は(名目でも)年率1.7%しか伸びていなかったので、これが改善されるのは景気にとっては良いことかもしれません。
しかし、FRBや株式投資家にとって個人消費が強いことは良いことかどうか分かりません。
次の記事にも書いてあるとおりに、一部のFRB高官は物価の上昇を抑えるために景気を計画的に景気を減速させないといけないと考えています。個人消費がいつまでも堅調だと金融引き締めが続いて、株価を下落させることになりかねません。
>>SF連銀総裁、金融政策で景気減速させる必要-物価抑制へ(ブルームバーグ)
住宅販売は全地区で下落
大きな変化が現れているのは住宅販売で、ベージュブックによると8月は全地区で販売額が下落しているようです。
別のデータ(ケースシラー20都市住宅価格指数)を見ると、既に数ヶ月前から住宅価格の伸びが鈍化し始めているのですが、この傾向は続いていそうです。これは物価を抑えたいアメリカにとっても、株式投資家にとっても良い知らせです。
住宅価格が下がったとしても、それが消費者物価(の家賃などの項目)に反映されるまでには1年以上のタイムラグがありますが、2023年後半には今よりもアメリカの消費者物価が下がる希望が持てます。
雇用
2021年からアメリカの物価を押し上げていた「現金給付」「供給不足」「エネルギー価格高騰」「住宅価格高騰」は収まりつつあるので、残る壁は「賃金上昇の高止まり」です。
しかし、ベージュブックを見ている限りは、まだアメリカの雇用は強いように見えます。
- 8月の雇用は多くの地区で、緩やかに増加した。
- 製造業、建設業、金融サービス業で求人率が改善したものの、ほとんど全ての地区では人手不足が続いたままである。
- 給料の増加ペースは鈍化しているものの、全ての地区で賃金は上昇。
人手不足が見られるので、金融引き締めはまだ続きそうです。
物価
最後に物価についてもベージュブックにコメントがあるので、気になった2点をあげておきます。
- 物価水準は依然として高止まり。しかし、12地区中の9地区は上昇率が緩やかになったと報告。
- 2022年末までは価格の上昇圧力が維持されると予想される。
2022年末までは価格の上昇圧力が続くというコメントが掲載されているところからすると、市場も予想している通り年内は利上げが続くのだろうと思います。