正確な言葉は覚えていないのですが、米国株の長期投資の研究で有名なジェレミー・シーゲル教授が、だいぶ前にテレビで次のようなことを言っていました。
「2020年からアメリカの現金や預金の総額は二桁を超えて伸びが見られ、これが今後数年のコロナ前を超えるやや高いインフレ率を招く」と。
この発言を聞いたときには、まだ今ほどアメリカでインフレが問題になっていませんでした。
「現金と預金が大きく増えても、日本のようにお金のめぐりが悪い経済ではデフレや低インフレが続く場合もあるから、まだインフレが起こるとは言い切れないな」と当時の私は思っていたのですが、今のところシーゲル教授のほうが正しそうです。
この記事では、現預金の急増がアメリカのインフレの要因になっているなら、これから先はどういう事が起こる可能性があるかを考えていきます。
この記事のポイント
- 2020年からアメリカでは現金と預金の総額(M2)が前年に比べて10%を超える伸びが続いている。
- 過去に10%を超えるM2の伸びが続いたのは、アメリカが長期のインフレで悩んだ1970年代と1980年前半のみ。
- 1970年代ではM2がピークをつけてから、3年から4年後にインフレ率のピークが来ている。今回も同じことが起こるなら、2023年か2024年にインフレのピークがくる。
10%超えで伸びるアメリカの現預金の総額M2
まず、シーゲル教授は2020年からアメリカの現金と預金の総額(M2)が大きく伸びていることを指摘しているので、現状を確認してみます。
以下のグラフは1960年代から現在まで、アメリカのM2の前年比をグラフにしてみました。
上のグラフを見ると、気づくことが2つあります。
まず(1)2020年3月以降にアメリカの現預金が前例がない勢いで増加していること、(2)同じように10%を超えるM2の伸びが続いたのはアメリカがインフレで悩んだ1970年代と1980年代しかないことです。
1970年代のアメリカの似ている点を見つけると、これからのアメリカはインフレで苦しむことになるのかなと不安がよぎります。
M2のピークから3-4年遅れてインフレのピークを迎える
さて、アメリカがインフレに苦しんだ1970年代との共通点が少し見えたところで、1970年代の消費者物価(インフレ率)の上昇の仕方を見てきます。
次のグラフは1970年代のM2と消費者物価の前年比をグラフにしたものです。
これを見ると、M2の伸びがピークをつけてから、消費者物価が上昇し切るまでにはかなりの時間の差があることがわかります。
M2の前年比が10%超えてから、だいたい3年から4年たってようやく消費者物価のピークが訪れている感じです。
今回のM2の伸びは2020年に始まっているので、1970年代と同じようなことが起こるなら2023年から2024年にインフレのピークが来るのかも知れません。
さいごに
この記事では、アメリカの現預金(M2)の高い伸びに注目して、同じような高い伸びを見せた1970年代と比較をしてみました。
1970年代と同じようなことが起こるなら、M2の伸びのピークから3-4年の2023年から2024年にもインフレのピークがやってくることになります。
ただし、この考え方は少し短絡的すぎる気もしています。
今後のインフレの行方を見るのに、M2だけでは十分ではないと思うからです。
たとえば、賃金上昇率を見ると、見える景色は変わってきます。
2021年11月現在は(少なくとも今のところは)1970年ほど高い賃金の上昇が見られてないので、個人的には今回の物価上昇は期間は短く、ピーク時のインフレ率も1970年代よりも低い数字にとどまると思っています。
このように別のデータから考えると今は1970年ほど状況は悪くないとの見方は簡単にできますが、(お金のめぐりが日本ほど悪くないと仮定して)M2だけを見た場合では、2023年から2024年頃までインフレが強まる恐れもあるようです。