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Netflixのスクリーンを巡る戦い。スクリーンの外に飛び出し始めたGoogleとAmazon

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ネットフリックスの視線の先にあるもの

2019年1月に発表されたネットフリックスの決算書に、気になる一文がありました。

We compete with (and lose to) Fortnite more than HBO
ネットフリックスが戦っている相手はケーブルテレビ放送HBOではなく、ゲームのフォートナイトだ。そして、その戦いに負けている。

ネットフリックスは、定額制で動画見放題のサービスを提供する最大手の企業です。この手のサービスは今、ビジネス上の最激戦区になりつつあります。英「エコノミスト」によるとネットフリックスの動画コンテンツへの投資額は1.4兆円にも登ると推定されています。日本の映画全体の総制作費は1000億円と言われているので、文字通り桁違いの大きさです。

その中で業界トップのネットフリックスが焦点を当てているのは、この分野に巨額投資を表明しているアマゾンでも、2019年にディズニー映画などの代表作のオリジナル動画配信を表明しているディズニー・プラスでも、新規参入を表明したアップルでもない。さらには、アメリカのケーブルテレビ大手のHBOですらなく、スマホ・PS4・XBOXなど他種類のゲーム機(クロスプラットフォーム)で大人気フォートナイトだというのです。

これはどういうことでしょうか。答えは、ネットフリックスの同じ決算書の中の「Competition(競合)」の章の中に書かれています。一言で言えば、それはテレビとスマホのスクリーンの専有時間を巡る戦いです。

スクリーンを巡る戦いとは

ここでは簡単のために、スマホに限定して、スクリーンを巡る戦いの説明をします。

調査会社のニールセンによれば、日本での2018年3月時点の1日のスマホ利用時間は3時間7分だったそうです。

スマホでアプリやサービスを展開する企業は、この3時間の間にどれだけ自社のサービスを使ってもらえるかに最大限の注力をします。アプリを開発する企業であれば、ユーザがスマホを触る3時間の中で1分でも1秒でも自社のアプリの滞在時間を長くして広告をひとつでもクリックしてもらったり、課金アイテムを1つでも多く買ってもらうためのあらゆる努力をします。

こうして無数の企業が、限られた3時間の時間の中の1分1秒を奪い合うのが、スクリーンを巡る戦いです。

そしてこのスクリーンを巡る戦いで残酷なのは、1分1秒を積み重ねる努力を差し置いて、他社の新規のキラー・アプリが登場したときには、大幅にスクリーン・タイムを奪われる特徴があります。

その顕著な例が2016年7月にリリースされたポケモンGoでした。7月の1ヶ月間で全世界で1億ユーザを突破してあっという間に、ユーザのスクリーンタイムを奪っていきました。ニールセンの調査では、2018年3月時点での日本人1人あたりのアプリ別利用時間で1位になっています。

このスクリーンタイムを巡る戦いは、テレビであっても同様です。アメリカでのネットフリックスはテレビのスクリーンタイムは10%しかシェアを取れていなく、フォートナイトに負けていると述べたのです。

レッドオーシャン、ブルーオーシャンに分かれる大手IT

ところで、GAFAなどの名称で呼ばれるアメリカの大手IT企業は、このスクリーンを巡る血で血を洗うような激しいレッドオーシャンの戦いに挑む企業(ネットフリックス、アップル、フェイスブック)と、スクリーンの外でのブルーオーシャンの戦いの場を移し始めた企業(グーグル、アマゾン)に別れ始めました。

ここではネットフリックス以外の各企業の戦いを覗いてみたいと思います。

レッドオーシャンの挑戦者:動画コンテンツサービスを開始するアップル

iPhoneの売上に陰りが見え始めたアップルは、2019年1月にティム・クックCEO自ら、定額制見放題の動画コンテンツサービスに参入することを宣言しました。これはネットフリックス、アマゾン、ディズニーと競合するスクリーンの中の戦いに参戦することを意味します。

その他、定額制ゲーム遊び放題サービスの開始や、定額ニュース読み放題サービスが噂されていますが、そのいずれもがスクリーン中で行われる戦いです。

レッドオーシャンの勝ち組:アクティブユーザ数で上位を独占するフェイスブック

フェイスブックは現時点でスクリーンタイムを巡る戦いでかなり優位な位置にいます。we are socialの調べによると世界中の人々はSNSに2時間も費やしています。

SNSサービス毎のアクティブユーザ数を見てみると、1位フェイスブック、3位WhatsApp、4位FBメッセンジャー、6位インスタグラムと、フェイスブック傘下の企業上位を独占している状態です。

ネットフリックスとアップルとの大きな違いは、フェイスブックは人と人をつなぐ場所を提供していて、コンテンツはユーザが作ってくれることです。この点、ネットフリックスやアップルのように巨額なコンテンツ制作費はかかりません。ただし、かつて日本人のSNSの流行がmixiからフェイスブックへと移ったように、ほんの数年でユーザが離れていく現象を食い止めることができるかが今後の大きな課題です。

また一方で、フェイスブックはVRのヘッドマウントディスプレイを製造するオキュラスを買収するなどスクリーンの戦いだけでない動きも一部見せつつあります。

ブルーオーシャンの挑戦者:スマホ・自動車・時計・家などスクリーン外に主戦場を移したグーグル

2016年に「グーグルはモバイルファーストからAIファーストの世界へ移る」「スマートフォン、ウェアラブル(時計など)、自動車、ホームの4分野でAIを使って賢くしていく」とピチャイCEOが公言をした後から、グーグルは会社が変わったように作るプロダクトを変化させていきました。

従来は検索エンジンやスマホのAndroid OSなどPCやスマホのスクリーンの中で動くサービスを作っていましたが、最近は”OK,グーグル”で有名なグーグルホームを販売し、グーグル(の親会社アルファベット)傘下のWaymoは自動運転車を作り配車サービスを一部で開始しています。また、スマホOSだけでなくスマホ本体Pixelも販売を開始し、次なる手としてスマートウォッチが噂されています。

グーグルは2016年から明らかにスマホやPCのスクリーンの外で勝負をかけています。時計・家・自動車、そしてそれらをコントロールするためのスマホの4つ全てにGoogle Assistantという”OK, グーグル”で反応する人工知能を搭載し、インターネットでお互いに接続しあっています。

従来はPCとスマホのスクリーンだけだった、人とインターネットの接点を時計・自動車・ホームに広げているのです。

ブルーオーシャンの挑戦者:スクリーンの外で新しい買い物体験を創造するアマゾン

アマゾンもまたスクリーンの外に挑戦の場を飛び出し始めた、珍しいIT企業です。

ボタン一つで買い物ができる特定の商品を購入できるアマゾンダッシュボタンや、声だけで指示を出せるAmazon Echo、またレジを通さず買い物ができるAmazon Goは革新的な取り組みです。

アマゾンダッシュ

Amazon Go

これらの取り組みは、基本的にネットショッピングの手間を省くものとして開発されています。ネットショッピングはサイトに移動し、商品を選び、配送場所と時間を指定し、決済をする多段階の手続きがあったところに、「ボタン一つで商品を注文できる(アマゾンダッシュ)」「声だけで商品を注文できる(Amazon Echo)」という便利さを持ち込みました。

また、Amazon Goも実店舗のレジに並んで会計する手間を省いています。いずれも共通しているのは、スクリーンの外に飛び出して、ユーザに新しい買い物体験を提供しています。

スクリーンの中か外か

Googleとアマゾンがなぜ画面の外に戦場に移し始めているのかというと、先程グーグルの説明でも少し触れたように人々とインターネットの接点がスクリーンから、モノに広がりつつあるからです。わかりやすいのがグーグルの例で、グーグルは自分たちが注力するモノは「スマホ・時計・自動車・ホーム」だと明言しています。(近年の買収もこの4分野のいずれかに関連しているものばかりです)

Googleもアマゾンもインターネットの新領域としてスクリーン外にネットにつながるモノに着目しています。また、モノをネットをつなぐだけでなく、その多くにAIを組み込んできている点も両社共通です。

一方で、スクリーンの中を巡る戦いに目を移すと、定額制コンテンツ配信サービス競争が過渡期を迎えています。その様子はあたかも、2010年代前半のクラウド価格競争のようです。戦いの果に、AWS(アマゾンのクラウド)とAzure(マイクロソフトのクラウド)の2社の勝者に大きな利益を上げたように、定額制動画コンテンツサービスも1-2社を残して勝者だけが利益を享受する構図が浮かび上がりそうです。



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