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トヨタ、モビリティカンパニーに変わるってよ。

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モビリティカンパニーに変わるトヨタ

今年の正月に、香川照之のCMでトヨタ社長の言葉を引用しながらこんな事を言っていました。

トヨタは車のメーカーじゃなくなる。すべての人に移動する楽しさを提供するモビリティカンパニーになる。そのためにトヨタは変わる。

これがどういうことかが今日のテーマです。

トヨタ社長の言葉

2018年の10月に発表したトヨタ社長、豊田章男氏のメッセージがこのCMのメッセージの元になっています。

私は、トヨタを「自動車をつくる会社」から、「モビリティカンパニー」にモデルチェンジすることを決断しました。すなわち、世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する会社になるということです。(豊田章男)
出典:社長メッセージ「100年に一度の大変革の時代を生き抜くために」

このメッセージのポイントは次の2つです。

  • 車を作って売る1回きりの売上でなく、サービスを提供して継続的にお金をもらうようになること。(サブスクリプションモデルへの転換)
  • 車を売る市場だけでなく、人に移動手段を提供する市場へターゲット市場を拡大すること。(ターゲット市場拡大)

サブスクリプションモデルの採用

このトヨタの最近の解説記事を見ていると、車売る1回きりのタイミングで儲けるのではなく、「毎月いくら」のように継続的にお金を貰えるような課金制度(サブスクリプションモデルと呼ばれるビジネスモデル)に変わるのだという主張を良く目にします。

これは大きな変化です。サブスクリプションモデルの特長としては、じわりじわりと顧客が離れない程度に値上げをコントロールしながら上げることができるので、収益を上げやすいことがあります。また、高額な商品ほど景気によって買い控えが発生しやすいですが、サブスクリプション型で毎月請求にすれば毎月確実にチャリンチャリンと集金できます。

このサブスクリプションモデルは、マイクロソフト社のOfficeや、アドビ社のデザイナ向けソフト(フォトショップやイラストレータなど)で採用して、両企業の目覚ましい復活の原動力になったことで有名です。

ターゲット市場を広げる

多くのトヨタに関する多くの記事が「サブスクリプションモデルの採用だ」という解説で終わっていますが、それだけが豊田氏のメッセージかというとそれも違います。

もう一つ重要な点として、ターゲットとする市場の拡大があげられます。トヨタの言葉を借りれば、自動車販売市場だけでなく、”世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービス”市場に拡大することになります。

移動手段の市場といえば、例えば電車、バス、タクシー、またはUberや全国タクシーなどの配車タクシーも含まれます。人に楽しみを与える移動手段市場という立場にたてば、車の中でカーナビだけでなく音楽や映画も見れる機械のことを指すのかも知れませんが。トヨタが具体的に移動手段市場のどこに参入するのかは明確になっていませんが、車を作るだけではなく、対象とする市場を広げようとしているのがわかります。

実は、今回のトヨタのようなサブスクリプションモデルへの変換とターゲット市場の変更は、2010年代前半のGE(ゼネラル・エレクトリック)の変革で同様の成功例をみることができます。今は、だいぶ見る影もなく落ち込んでいるGEですが、何代に渡って優秀な経営者に支えられたこの会社は、航空機エンジンメーカーだけでなく、飛行機エンジン分析サービスを始めてビジネスの変革を起こしたことで有名です。

GEのエンジンのサービス

GEは航空機エンジンを製造するメーカーでしたが、ある時からエンジンのデータを飛行中も集め続けることをはじめました。

飛行中もずっとデータ取得してリアルタイムの解析ができるようになり、その情報を提供するサービスを始めたことで、空港会社は機体が着陸する前にトラブルの有無や発生箇所がわかるようになり、効率的に機体整備ができるようになりました。

航空会社は長時間の遅れが発生すると、食事の再手配やホテルの提供など膨大なコストが発生し、その費用総額は米国だけで2013年で約1兆円にも登ります。この費用はもともとの航空会社の薄い利益をさらに圧迫するため、GEの故障箇所追跡サービスはとてもありがたいものでした。

加えて、GEはエンジンのデータを分析することで、パイロットに燃費のいいフライトパターンを提示するサービスも提供できるようになりました。航空機の燃料は世界で3.6兆円も消費している大きなコストがかかっているものですが、GEのサービスを利用したエアアジアの例では、年間1%の燃費効率を改善しています。

トヨタとGEの共通点

このGEの取り組みを、トヨタの言葉を借りて表現するならば、”GEを「航空機エンジンをつくる会社」から、全ての航空機会社に収益性の改善を提供する「エンジンサービス・カンパニー」にモデルチェンジした”といえます。

このときのポイントは次の2点です。

  • エンジンを作って売り切るだけの企業から、エンジン分析サービスを提供してサブスクリプションモデルに変換した。
  • エンジンを作る市場だけではなく、その先の航空機遅延防止市場(米国の市場規模1兆円)と燃費改善市場(世界の市場規模3.6兆円)に進出して売上を伸ばした。

1点目の製造業がサービスをはじめることは「モノ売り」から「コト売り」と表現されることもあります。一般的にモノを作って売るメーカーよりも、サービスを提供する事業のほうが収益性が高いので、関連するサービス業を展開するのは自然な流れといえます。

約10年前に通ったGEの変革を、今後はトヨタが挑んでいます。


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