中国、貿易が低迷しても高いGDP成長率を維持できるのはなぜか
中国は2019年9月の貿易統計を発表しましたが、米中貿易戦争の影響を受けたのか、輸入も輸出も予想以上に悪い数字でした。前年を大きく下回る数字に、一部では中国が目標としているGDP6%台の成長が難しいのではないかと危ぶむ声も聞こえ始めています。
ただ、こうした輸出入の規模の減少は今月に始まったことではありません。直近の中国の貿易の低迷について紹介した後に、それでもなぜ今までも6%もの高いGDPが維持できているのかの理由について書いていきます。
予想以上の落ち込みを見せた中国9月輸出入
9月の中国の輸入と輸出は、予想以上の減少をみせました。輸出は-3.2%、輸入は-8.5%でいずれも事前の予想を上回る落ち込みでした。
- 輸出:エコノミストの事前予想-3.0%に対して、結果は-3.2%。
- 輸入:エコノミストの事前予想-5.2%に対して、結果は-8.5%。
そして、こちらが近年の中国の輸入と輸出の増加率を表したものです。輸入・輸出ともに2018年から2019年にかけて大幅な減少傾向が見られます。
こういうグラフを見ると、やはり米中の貿易戦争の影響は出ているのかなと感じます。先日、別の統計で中国の製造業の景況感が数ヶ月連続で回復しているという数字が出ていましたが、少なくとも貿易に関してはその回復基調は見られませんでした。
[参考] 一部好調な数字が見られた中国の製造業景況感に関する記事はこちらです。:
中国の景況感が良いのか悪いのか、いまいち分からないです。
こんなに低迷していてGDP6%成長は可能なのか
さて、こうなると疑問が生じてくるのが、こんなに輸出も輸入も低迷していて、中国が目標をしている6.0%台GDP成長率は達成可能なのかということです。
ロイターの記事では、「どうも難しいっぽいですよ」とほのめかすかのようにアナリストの予想を引用しています。
アナリストの間では、第3・四半期の成長率は、約30年ぶりの低水準だった第2・四半期からさらに低下し、政府の通年目標(6.0─6.5%)の下限を下回る恐れがあるとの見方がでている。” (ロイター)
私も、さすがに今度はちょっと難しいかなと思い始めていますが、6.0%台のGDP成長率はまだ可能だと思っています。ただし、その理由は中国の景気が強いからとかではなく、ただの「数字のからくり」のせいで、中国の実体経済はかなり弱いにもかかわらず、GDP成長率の数字だけは高い結果がでる可能性があると考えています。
中国が高いGDP成長率を維持している数字上のからくり
GDPは次の式のように、(輸出)-(輸入)が増えれば、GDPも増える構図があります。
GDP = (消費額) + (投資額) + (政府支出額) + (輸出額) - (輸入額)
そして中国は意図的なのか、結果的なのかわかりませんが2018年から[(輸出額)-(輸入額)]を増やし始めています。次のグラフでは中国の輸出増加率と輸入増加率の差を見ているのですが、2018年も2019年も共に年初に極端な変動はあるものの、[(輸出額) – (輸入額)]は全体的に右肩上がりに増加している傾向が見られます。
上の2019年の9月の輸出入の増加率のデータでも、グラフでも見て取れるように、中国は輸出の減少以上に、輸入を大きく減少させています。
輸出も輸入も大きく減少しているので本当は経済としては大きく規模が後退しているのですが、輸入を輸出以上に大きく減少できているので、[(輸出額) – (輸入額)]の項目では見かけ上GDPを押し上げることに成功しています。
(そして、中国が輸入を大幅に減らすということは、他の国の輸出額を減らせるので、世界の製造業が不振に陥っています。)
輸入減少に頼る中国GDP
実際に下の表で2018年第1四半期以降の中国のGDPの内訳を見てみましょう。
以下の内訳表では、[(消費額) + (投資額) + (政府支出額)]をひとまとめに(国内)、[(輸出額) – (輸入額)]を(貿易)とまとめました。
国内 | 貿易 | GDP成長率(国内+貿易) | |
---|---|---|---|
18年1Q | 8.1% | -1.3% | 6.8% |
18年2Q | 7.5% | -0.8% | 6.7% |
18年3Q | 7.1% | -0.6% | 6.5% |
18年4Q | 5.9% | 0.5% | 6.4% |
19年1Q | 4.9% | 1.5% | 6.4% |
19年2Q | 5.0% | 1.2% | 6.2% |
これを見ると、中国国内の消費・投資・政府支出の合計は2年間で成長率が大きく減少しているのに、貿易関連が伸びを見せているために、GDP6.0%以上を維持できていることがわかります。そして、2019年第3四半期も、前の四半期以上に輸入をしっかり減らしているので、中国はGDP6.0%台の維持はまだ可能かなとも、私は考えています。
ただし、重要なのはGDP6.0%の維持は景気の良さを維持できているとは限らないことです。国内のGDP項目は減少していて、なおかつ貿易のGDP項目も結局は輸入の大幅減少で数字を作っているとすると、中国はGDPで見えている数字以上に経済が弱いというのは十分ありえます。
だから、もし次の2019年第3四半期で中国のGDPが6.0%台を維持していたとしても、数字以上よりも実態が悪い可能性があると頭の片隅に入れて、内訳を見るようにしないといけなさそうです。