1月の雇用統計の数字をあらためて眺めていたのですが、やはりアメリカの雇用はそんなに強くないのではないかという考えが浮かびます。
ニュースなどで最も取り上げられる非農業部門雇用者数という数字ですが、あと数ヶ月もすれば今回のデータは下方修正がかかって、結局は「雇用は強くありませんでした」という話になる気がしています。
この記事のポイント
- 2024年1月非農業部門雇用者数は前回(23月12月)以上に予想を大幅に上回って強かった。
- しかし、他のデータを見ていると12月・1月のアメリカの雇用はそれほど強くない。家計調査では従業員数は2ヶ月連続で減少しており、Indeedの求人数も1月に減少ペースを速めている。
違和感のある非農業部門雇用者数
2月も1週間が終わり、1月のアメリカ経済の好調ぶりを示すデータがいくつか発表されました。
ISMから発表されたアメリカ企業の景況指数は特に新規受注が伸びて予想よりも良い結果が出ましたし、クレジットカードの使用状況から推測される消費(下図)を見ても1月の消費はまずまず調子が良かったことを示しています。
なので、アメリカの好調な景気が続いていることを否定するつもりはありません。
アトランタ連銀のサイトのGDP Nowが示しているように1-3月期の経済成長は3%を超えるようなペースで来ているとも思います。
しかし、この1週間で発表されたものの中には、結果を素直に受け取れがたいデータもありました。
アメリカの1月雇用統計です。
大きすぎる雇用者数の増加
雇用統計のすべてのデータが変だと思ったわけではありません。違和感を感じたのは、非農業部門雇用者数の増加数についてです。
- 非農業部門雇用者数:35.3万人(予想18.0万人)
この雇用者の増加は、どうも大きすぎるように見えます。正直いうと、変だなと感じています。
変だと思う根拠を具体的に見ていきましょう。
非農業部門雇用者数は企業や政府を対象に雇用者数を調べたものですが、それとは別に家計に調査して従業員数(employment level)も公表しています。雇用が本当に強いなら、従業員数ももちろん増えているはずなのですが、最近は2ヶ月連続で減少しています。
「非農業部門雇用者数」と「従業員数」のどちらかが間違っている可能性が高いのですが、私は間違っているのは非農業雇用者数のほうだと思います。
すでに多くの人が指摘していますが、非農業部門雇用者数のデータは頻繁にかつ大胆な下方修正がかかることが多いからです。
たとえば、今月の雇用統計と同時に発表されたデータでは、過去の非農業部門雇用者数は1990年1月から合計213万人分の雇用が下方修正されました。
その下方修正の大部分は2022年から2023年にかけてのデータでした。
これだけ大きな修正が入ると、12月と1月で非農業部門雇用者数が大きく増えたからと行って、数カ月後に下方修正されるのではないかという見方をしてしまいます。
一方で、家計調査で判明している従業員数はこれほどの大きな修正は入っていません。なので、どちらかというと信頼できるのは家計調査の従業員数のほうではないかと思います。
その場合、アメリカの雇用は弱まっているという話になりそうです。
その他データについて
この数ヶ月でアメリカの雇用は弱まっているという見方を裏付けるデータは、他にあります。
例えば、Indeedの求人件数(下図)を見てみると、2024年1月から求人の減少ペースが早まっています。
また、ISMのデータを見てもサービス業の雇用は12月に大きく減らしており、1月はその低迷した12月とほぼ同程度という結果になっています。
これらの結果は、非農業部門雇用者数が報告している「2023年12月と2024年1月の雇用が予想を大きく上回って強かった」というものとは違います。
おそらく、間違っているのは非農業部門雇用者数で、今回のデータは数ヶ月後に下方修正される可能性は十分にあると思います。
問題なのは、「雇用が強いならまだ利下げはできない」とFRBも市場も考えて、利下げのタイミングが遅れることです。利下げが遅れば、アメリカの景気はいずれ景気後退入りすることになります。
この記事の前半でも話したように、今はまだアメリカの景気が強いので失敗はいらないですが、2024年も後半から終盤にかけて不況が訪れてしまうと、割高な米国株の下落は避けられないだろうと思います。