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なぜ、スターバックスはIT企業に出資するのか。

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スターバックスのIT企業への出資

近年、外食チェーンのIT企業への出資や買収が相次いでいます。

マクドナルドのイスラエルのIT企業Dynamic Yieldの買収に続き、スターバックスもITスタートアップに出資を決めたようです。2019年7月22日月曜スターバックスはモバイルオーダーとモバイル決済のスタートアップBrightloomへの出資を発表しました。

モバイルオーダーとは、スマホのアプリで事前に商品を注文して決済まで行い、指定した時間に店舗で並ばずに受取れるサービスです。スターバックスは日本でも2019年にこのサービスを展開しています。

参考記事:スタバ、レジに並ばず商品を受け取れるモバイルオーダー&ペイを開始。

今回の発表では、スターバックスはBrightloomに出資をして役員を送り込み、Brightloomはスターバックスの直営店に提供しているモバイルオーダーと決済の機能を、今後はスターバックスのライセンス店舗にも拡大すると発表がありました。

近年は、外食チェーンのIT導入(デジタル化)が加速していますが、この狙いは一体何でしょうか。

その狙いには、2つの経営トレンドの背景があります。1つは「新しい顧客体験(CX)の提供」、もう1つは「BtoBtoC」と言われる動きです。

2つとも真新しいものではありませんが、なかなか聞き慣れない言葉かもしれません。ここ数年、コンサルタントが世界中の経営陣の耳に吹き込んでいて活発化している動きでもあるので、このスターバックスのIT企業への出資を題材に解説したいと思います。

スターバックスが狙い新しい顧客体験

「新しい顧客体験(CX)の提供」というと重々しいですが、単純に言うと「新しい心地よさ・快適さ・便利さの提供」です。

たとえば、ガラケーしかなかった時代にスマホは「新しい快適さ・便利さ」を提供しました。するとスマホは瞬くまでに世界中に広まり(ユーザ数拡大)、ひとたび快適さに触れてしまうと次の買い替え時期にはガラケーに戻るということができなくなります(リピート率の向上)。

このように新しい顧客体験は、ユーザ数の増加とリピート率に直結します。企業の売上は以下のように、単価とユーザ数とリピート率の3つで決まるので、そのうちの2つにプラスに働く「新しい顧客体験の提供」に企業が目を向けない理由はないのです。

(売上) = (単価) × (ユーザ数) × (リピート率)

参考記事:新しいユーザ体験UXとは何か。企業と株主がUXを追求すべき理由。

ちなみに、この「新しい顧客体験の提供」の価値は、スティーブ・ジョブズ率いるアップルが爆発的に売れ始めた2000年代から一部の先進的な人は気づいていましたが、本格的にその価値が世の中に認知されたのは、2010年代半ばからです。

この頃からマッキンゼーやアクセンチュアなどの世界的なコンサルタント会社は、こぞってデザイン会社を買収しました。デザイナー目線から「顧客が求めている、より良い製品デザイン」「機能面だけでなく、感性にも訴える快適なサービス」の提案をできるようにするためです。

スターバックスがモバイルオーダーペイメントを2014年からスタートさせたのも、こうした「新しい体験の提供」のためでした。

そしてその狙い通り、スターバックスのアプリは5500万人にダウンロードされており、そのうちの40%はモバイルオーダーを使っているといわれているので、2200万人はアプリ経由でスタバの商品をネット注文をしていることになります。サービスは確実に普及しています。

なぜ、提携ではなく買収や出資をするのか

しかし、ここで1つ疑問が生じます。単にモバイルオーダーを受け付ける仕組みを作るだけなら、IT企業に発注すればいいだけで、わざわざIT企業に出資したり、買収したりする必要はないのではないかと。

「新しい顧客体験の提供」だけが狙いなら、確かにそのとおりです。そこには別の狙いが存在します。

その出資や買収の狙いの背景にあるのが、「BtoBtoC」というもう一つの経営トレンドです。BtoCとか、BtoBとかいう言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、それの発展形です。

  • BtoC(Business to Costomer):一般顧客向けのビジネス
  • BtoB(Business to Business):企業向けのビジネス
  • BtoBtoC: 「BtoCを行う企業」向けのビジネス

BtoBtoCは新しい概念ではありません。結構前から世の中にあります。

例えば、ドコモやauやソフトバンクなどは、携帯電話の契約だけではなく、家用のインターネットの光回線の契約も行っているBtoCビジネスもやっています。しかし、その3社はいずれもインターネット回線網の設備を持っていません。一般顧客へのビジネス(BtoC)を展開している携帯電話会社3社に対して、NTT東日本やNTT西日本が光回線を使わせてあげるビジネス(BtoBtoC)をすることで成り立っています。

このBtoBtoCビジネスの形なら、NTT東西は全国の世帯と契約をするための個人営業の人材を置く必要がなくなり、契約は携帯電話会社が取ってきてくれることになります。

実に、おいしいですね。BtoBtoCは旨味があるのです。

スターバックスが狙っているのは、せっかくお金を出して出来上がったモバイルオーダーペイメントのシステムなのだから、それを他のレストランにも有料でもらって使ってもらい、さらにお金稼ぎをすることです。こうすることで黙っていてもお金が入るBtoBtoCのビジネスが出来上がりれば、システム構築費を回収できる上、さらなる次の世代のシステムの構築費に回せます。

実際に、スターバックスとBrightloomの2社は、構築したモバイル決済とモバイルオーダーの仕組みを、今後は他のレストランが導入できるように商品化する計画があることを明かしています。

マクドナルドのIT企業買収も完全に同じ意図です。だからこそ、近年は外食チェーンでもIT企業への出資や買収が盛んなのです。

こうした動きは外食チェーンにとどまりません。あらゆる業界に見られる動きです。

例えば、Googleの自動運転開発のWaymoは、自動運転用に独自のセンサーを開発しただけでなく、他のライバル企業にセンサーを売るために大量生産を始めています。センサーを大量生産すれば、センサー1台あたりのコストがおさえられる上に、他社がセンサーを買ってくれれば、結果的に1台の自動運転の車の値段を他社より安価に抑えられるためです。

参考記事:Waymo、自動運転車の精度を握るセンサーを外販化へ

BtoBtoCは新しい考えではないものの、有効に活用すれば自分たちに有利な展開に持ち込むことが出来ます。外食チェーンのIT企業への背景にあるのは、新しい顧客体験の提供だけでなく、虎視眈々と次を見据える、したたかな戦略です。


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